リノルナも含めて、LGBTQの人は【男と女】という基本的な社会規範から、結果的にはみ出してしまう存在なんです。だから家庭、学校、会社など社会規範が強く作用している場所で自分らしく生きるということが、とても難しい。

自分の両親に対して【自分らしく生きられない】なんて状況、あんまり聞かないですよね。でもLGBTQって、おうちでも、学校でも、バイト先でも、いつでも身の安全を心配しながら生きていかなくてはならないのです。そうしないとひどい目に遭うんですよね。

子どもの頃、ホルモンバランスが普通ではなかったのか、ぼくの体には少し乳房があった。(いまもちょっと残ってますけどね。)加えて、当時は可愛い服装を好んでいましたので、ふつうに女子に見えるわけですよね。ただ名前は男性の名前だし、出席簿も男の子の方のリストに入っている。

そういう感じの小学校の頃、「男子トイレに女子が入っています!」と学校中が大騒ぎになったことがありました。その『女子』とは、もちろんぼくのこと。仕方なかったのかもしれないけれど、その後の担任の先生の対応はあんまり良いものじゃなかった。

ホームルームのような時間に教壇の前にぼくを立たせて、「この子は、クラスのみんなはよく知っているように、ちゃんと男の子です」とクラスメートに周知するわけです。

そのあと「ぼくは男の子です」とみんなの前で言わされた。

でも【男の子】ってなんだろう? ぼくは自分が何を言わされたのか、いまでも分かりません。

それからというもの、ぼくはヘンなふうに性的に興味を持たれる対象になってしまった。体育の着替えの時間などには、「おまえの体、どうなってんだ?」と男の子たちに服を脱がされたり。それって完全に明確に犯罪ですよね。自分の体をさらすことになってしまうので、プールの時間はもちろん見学。

というか、もう学校なんか行きたくないけど、両親も分かってくれない。もう完全に詰んでいる感じ。身の危険を感じるのです。いつ殺されるのかと、びくびくして生きておりました。どこかに連れ去られて、拷問みたいなことをされて、そして殺される。トラウマ級の嫌な思い出です。

LGBTQの人って、自殺する人けっこう多いのです。とにかく死なないでほしいと思います。大人になれば、すこしラクになります。本当です。学校なんか行かなくていいです。大人になるまで引きこもっていればいいんです。組織に属する必要なんてない。仕事は、起業すればいいんです。

生きるか死ぬか、ということで言えば【カミングアウト】というのがあります。同性に恋心を持ったとき、相手に告白する前に、LGBTQには、もうひとつ告白することがある。つまり「ぼくは同性愛者です。受け入れてくださいますか」と彼に言う必要があるのです。

かつて「ぼくは男の子です」と言ったときのトラウマ級の思い出がよみがえります。【カミングアウト】はとても怖いことなんです。だって、殺されるかもしれないから。

だからカミングアウトは、絶対に信頼できる人にしか出来ません。LGBTQの人は、一目惚れで即告白、みたいなことはあまりしません。じっくりその人を観察して、考える必要がある。でも恋は盲目、といいますからね。しくじることもあるんですよ。

高校生の頃、ぼくは中性的ではあったけど、外見はだいぶ男性的になってきた。そして同性の人に恋をしたのです。いろいろハードルがいくつもあるややこしい恋でした。彼は、男性で、妻子持ち。しかも学校の先生。同じ学校の中で、彼は教師で、ぼくは生徒という立場。

ぼくは自分自身が無鉄砲でおバカさんなので、頭のいい人に恋をする傾向があるんですけどね、彼はすごく頭が良くて好きだった。(いまのパートナーもとても頭が良くて大好きですよ、もちろん!)

彼にカミングアウトして、付き合うことになったんです。でも何年かして別れてしまいました。だって続くわけないですよね。いまなら、そもそも付き合わないと思うけど。

でも彼にカミングアウトした事実は残り続ける。彼に恋をしたのはもう30年くらい前の話なのですが、いまだに彼からしつこいくらいに電話がかかってくることがあるんです。

「おまえ、ぼくのこと好きって言ったことあるだろう。いまでも好きか」って。

あの、ごめんなさい。もう好きじゃないです。カミングアウトは命がけでも、その後の恋愛はふつうに当たりハズレがあるんですよね。