占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第49話「ウサギ人形」

テナントビルの、深夜の書斎。
部屋のランプは限りなく照度を抑えてある。
それから、やけに大きいサイズのチェス盤を片付けて
大理石のテーブルの上には、
空間ができて
いまはタンブラーとランプだけ、置いてある。
タンブラーには、
万一、喉が渇いた時のために温かい緑茶を淹れた。
薄ぼんやりとした、とても暗い空間へ。
慎重にいこう、
だいぶん折りたたまれているみたいだからね。
(まさしき呼び、内にて呼びなお呼び──)
ぼくは、大理石のテーブルのマーブル模様を
薄い目をして眺めながら、はじめた。
まことの呼び魂よ。
内にて呼びなお呼びよ。
呼び魂まことの内より呼び、
なお呼び、内よりなお呼び、 まことの呼び魂、
呼びなお、 内にて、呼び魂よ、まことの、 なお呼びなお、
内より呼び魂、 まことの呼び、なお呼び魂、
内にて呼びなお呼びよ──
と、ここまで来て、
ぼくは目を普通に戻してから
緑茶を一口飲んだ。
それから身体をチェックする。
痛いところ。
かゆいところ。
ピリピリするところ。
特になし。
とおくの身体のほうで、
なにか起こっていないか。
特になし。
なんだか、深海の底でたゆたっているみたいだ。
サーチが効いていない。
急に、店の様子を見てみたくなって、
ぼくはドアを開けて
エレベーターホールに出た。
エレベーターホールは
照明は落とされて、
とても静かだ。
緑色の非常灯の灯りと、
赤色の消火栓の灯りが入り混じって
変な色合いをしている。
階段へのドアも、店に続く防火扉も閉まっている。
エレベーターは5階で停止していて、
このフロアには降りていない。
床になにか落ちている。
手に取って確かめたら、
ウサギの人形だった。
手足をブランとさせている。長い耳がついている。
ぼくの左手を、
ウサギの背中からウサギの身体の中へ入れてみると、
ぼくの手で、
両手と口を動かせるようになっているのが、わかった。
手首をひねって、ウサギの顔をこちらに向ける。
(変な顔だな)
ふと、口をついて言葉が出てきた。
「なんだよ、おまえ。なに見てんだよ。おれに触るなー!」
あはは。なんだかおもしろいな。
「なにがおもしろいんだよ」
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