占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第48話「骨とダイス」

お昼過ぎの店内。
その人は、遠くから来ていた。
ケンタッキー州ルイスビルの生まれで、
いまは沖縄の八重山にいるという。
ルイスビルは競馬の街。
ぼくはルイスビルには行ったことない。
セントルイスならしばらく滞在したことある。
ルイスビルとセントルイスは国道64号で接続されていて
車なら4~5時間といったところか。
ただし、オハイオ川とミシシッピ川を
それぞれ横断する必要がある。
彼は、どこにも長くは留まらないらしい。
居場所を探す流浪の旅人。
でも、困っている感じはなかった。
ぼくは西洋占星術で、彼を見てみる。
まだ何も決めていないのに、
だいたい分かってしまう。
そんな感じがあった。
鑑定が終わるころ、
スーツをきっちり着込んだ人影が店に入って来て、
鑑定台の向こうに立った。
「リノルナ。お迎えにあがりました」
「これは、おまえが出てくるほどのこと?」
「リノルナ。それはあなた次第かと」
「ああ。そうか。昨日の夜さ、書斎のベランダから外を行く人影を見たよ。
横断歩道のところで、
道路を横断するのに、その人影はスピードを緩めなかった。
かわりに、信号のほうが青に変わった。
だとしたらさ、そいつ、とても運がいいよね」
「で、いまのは?」
「つがいの天使の片割れかな。翼を持ってるやつは、やっかいだね。
彼に、人間世界での居場所はないよ。
リロケーションを作動させてみたかったけど、
計算が面倒でやめた。
太平洋上エリアでの地理的不利も、
八重山ならなんとかなったかもしれないけどね」
「骨とダイス、ですか」
「彼がどっちなのか、迷うところだよね」
少しだけ間が空く。
もしかしたら、
the very call, soul──
……なのかもしれないな。
「これはさ、very, call soul──かな。
ジョイスだっけ。おまえ、分かる?」
「リノルナ。お気を確かに。『ユリシーズ』には出てきません。
その断片は、あくまで出典不明のままです」
「ちょっと休憩」
ぼくは、鑑定台の椅子の背もたれに身体をあずけて、
しばらく目を閉じる。
参考文献:
ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』1922年





