
占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第32話「雨の日」
雨の日の店内は、
お店の中にまで雨が降っているみたいに感じる。
と言っても、お店の床に
水たまりが出来るわけでもないんだけど。
それはいわば、
ビジョンとしての雨。
たとえば、真夏のお昼どきに、
公園の木が作る木陰から地面に向けて
ミノムシみたいな線が無数に降りている。
見たことある人がいたら、
いいんだけど。
雨も、天から地に向けて降りる
無数の線のようなもの。
その無数の線が、
お店の中にも、無数に降りている。
いちばん近くに降りている線を眺める。
すると、
そのひとつ向こうの線に呼ばれる。
線は線を呼び、
ぼくの身体は遠く、見知らぬ場所まで
運ばれていく。
その間に、ぼくはビジョンを見ている。
でもそれは、
サーチとはまた違う感覚。
ちょっと前まで、
ぼくはこの感覚が占いに役立つと思っていた。
いまは反対に、
あんまり占い向きじゃないな、って思う。
もともと雨降りの日は、予約も入らないし、
あまりお客さんも来ない。
そのほうがいいのかもしれない。
「捜神記」には、
雨の日や、風の日に
(もし、いたとしたら)
神様や、龍神様などが
天から地に降りてきたり
地から天に昇っていく、
そんな日だ、と記されている。
ぼくは純粋なパワーの上昇し下降する様子を
しばらく眺めている。
窓の前に立って、外の雨を見ながら、
ぼくはつま先立ちになったり、また床に足を付けたり、
なんとなく動作を続けていた。
あ、でも
そういえば冷蔵庫に昨日食べ損ねた
チョコレートケーキが入っていたんだっけ。
雨の日に、
専門店で買ったおいしい紅茶を淹れて。
チョコレートケーキを食べて。
今日はそれでいいな。
ぼくは、窓際を離れて、
冷蔵庫のほうに向かって歩きだした。
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