
占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第23話「非常手順」
その日は、閉店時間を少し過ぎていた。
最後の客が帰り、
扉の看板を裏返し、照明を落とす。
店が、「店」から「自分」に戻っていく時間。
いつも通りの手順。
椅子を整え、鑑定台の上を空にする。
カードも、道具も、
今日はもう使わない。
何も起きていない。
少なくとも、そう見えた。
――そのときだった。
ぼくは反射的に、サーチをかけていた。
――いや。
違う。
ぼくの身体が、勝手にサーチを始めたんだ。
意識よりも先に、感覚が外へ伸びている。
いつもと、手順が違う。
範囲が、広すぎる。
ぼくにこんな出力は出せない。
ここは、店じゃない。
通りでもない。
区画でも、京都でもない。
じゃ、なに?
世界?
一瞬、息が詰まった。
視界がぐらりと揺れる。
目が回る。
こんな距離感、使ったことがない。
サーチというより、
引きずり出されている感覚に近かった。
思考より先に、身体が反応する。背中の奥が、冷える。
皮膚の内側で、緊張が走る。
このままでは、
身体が暴走してしまいそうだった。
……でも、待って。
ぼくは、まだ踏み込んでいない。
起動させる判断も、していない。
サーチだって、
べつに、ぼくは――
なのに。この感触は。
どこか、知っている。
胸の奥に、
かすかな違和感が、引っかかる。
あの子が、何かを探すときの感触に、
よく似ていた。
でも、違う。
これは、あの子じゃない。
こういう手順は踏まない。
あの子なら、
こんな回りくどいことはしない。
……そうか。
ぼくは、憑依されかけている。
その理解が形になった瞬間、身体の奥で、
なにかが静かに、勝手に切り替わった。
ぼくの身体の中が
ゆっくりと組み替わっていく。
何かが干渉してくる。
タイミングが早すぎる。
ぼくの身体は、
まだ、いつもの手順をしている。
なんだけど。
その非常時にだけ作動するはずの、
エマージェンシー・プロトコルが、
はっきりと、
起動準備に入ったのが分かった。





