
占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第33話「和菓子屋主人」
鑑定台をはさんで客がひとり、椅子に腰かけている。
この人はフランスでパティシエの修業を積んで、
京都に帰ってきて、ケーキ屋さんを開いたんだ。
ケーキ作りの腕前が良くて、お店は大繁盛で。
ところがある日、彼の知り合いの霊能者から、
「きみにお化けが憑いている」
と言われた。
紹介の紹介の、そのまた紹介で、
彼はぼくのところにやってきた。
その最後の紹介者が【筋】の道具屋だった。
だから今回、報酬はなし。
「気になさらないのが、いちばんなんですけどね」
と、ぼくはパティシエを見つめた。
「いや、気になるでしょ、ふつうは」
「まあ、そうですね」
サーチをしてみると、
お化けは「いる」。
ただし、ぼくはただの技術者だ。
もちろん技術には自信がある。
でも、まちがっても
この複雑な機構の設計者ではない。
お化けの端っこだけ見ても、全体なんか分からない。
だからこそ、ぼくは敬意を払っているし、相手の許可がいる。
「ぼくとしては、お困りでないのにお祓いをするのは
気がすすみませんけど」
「先生、やってください。そのほうが憂いがない」
「わかりました」
ぼくは彼の傍らに立つと、
自ら定めた手順どおりの動作を行った。
彼は、ほっとした様子で
店を出て行った。
「リノルナさん、あの例のお方ですが」
夜の、客のいない店内で、
【筋】の道具屋が口を開いた。
「家業の和菓子屋を継ぐことになりましてね。
なんでも、ずいぶん老舗の和菓子屋なのだとか」
「そうですか」
道具屋は、目の前に差し出された湯呑を取り、
茶を一口飲んだ。
「いちおう、お耳に入れて差し上げませんとね。
あんたはこの店を出ることが出来ない因果。わたしは外を出歩く因果」
道具屋は、扉の前で振り返った。
「あんたとは、仲良くやっていきたいんですよ」
扉が音をたてずに閉まった。
和菓子って、
羊羹? それとも、練り切りみたいなすごいやつ?
ぼくは外に出て、真夜中の通りを歩き、
近所の和菓子屋の前に立つ。
店は閉まっていた。
ぼくはしばらく待っていた。
つぎに、
ぼくは隣のコンビニに入り、和菓子の棚の前に立つ。
ぼたもち、ごまだんご、さくらもち――
和菓子って、いろんなのがある。
一度手を伸ばしかけて、また引っこめる。
どれにしよう。





