
占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂52話「お化けプロレス」
ここは地下1階にある狭い店舗用物件。
床の幅は7mくらいなのかな。
テーブルや椅子がなくて、
店内はがらんとしている。
天井からいくつもスポットライトがぶら下がっている。
隅にバーカウンターとリキュール棚がある。
なにかの飲食店だったのかな。
生演奏の音楽を聴いて、お客さんがくつろいだりして。
流行っていたのか、
閑散としていたのか
よくわからない。
でもぼくはここ最近、
何日もこの店に通い詰めている。
雑居ビルの階段を降りて、
不動産屋から預かった鍵で店のドアを開ける。
中に入る。
ここ、音がするんだ。
今日は道具を持ってきた。
巻き尺、ビニールテープ、ブルーシート、ウサギ人形を
カバンから取り出し、
床に並べる。
ぼくはウサギ人形を左手にはめて、
店の中央に立って、しばらく待っている。
「おまえ、テナント借りる気ないだろ」
ゴン。
と床の上に音が響いた。
パターンがあるんだ。
つぎは、ガチャン。と音がするはず。
ガチャン。
ぼくはウサギ人形をはずして床に置き、
音がした地点の
それぞれの場所にビニールテープを使ってバツ印を付けていく。
ドン、ドン。
バン。
音が終わる。
音がすごい量のバツ印として、
床の上に固定された。
床の平面上には時系列は表現できないけど、
範囲が特定できる。
巻き尺で測ると、6m×6mの正方形だ。
店の床は短いほうが7m。
なんで50cmずつ空白があるんだろうね。
「これ、プロレスのリングなのかもしれないな」
折り畳まれた言葉を広げてみよう。
まさしき呼び内にて呼びなお呼び
呼びなお呼び、まさしき内にて
まさしき呼び、内にて──呼びなお呼び
あれ?なにも出てこないね。
ぼくはすこし離れたところにブルーシートを広げて
座って待つことにした。
ウサギ人形を左手にくぐらせる。
ゴン。
音が始まった。
カバンから取り出した「プロレス語辞典」をめくる指先が
あるページで動作を止める。
「おまえ、このページの技のどれかだと本気で思ってるのか?」
ドドン。
「ほら、これ跳んで落ちるやつ」
音に合わせて、ページがめくられていく。
「リング」の項目で、指が止まった。
リングの構成要素は①〜⑨まであって、
⑤鉄柵
「選手同士の場外乱闘からお客さんを守るためにリング周囲に設置されている鉄製の柵。対戦相手を激突させてダメージを与えるのに使われることもあります。」
そうか。
「あれ?この本には、場外乱闘の項目がないね。静かなものだね」
音が終わった。
満足した。ぼくは拍手を送った。
ブルーシートを畳んで、
巻き尺とウサギ人形とプロレス語辞典をカバンにしまう。
ビニールテープを剥がしにかかっているとき、
剥がしたビニールテープの裏に
文字が書かれていることを発見した。
演場。闘技非常。渦不至。——kinoscu
出典:プロレス語辞典,榎本タイキ,誠文堂新光社,2016
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