
占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第41話「冷やす」
ぼくのお店のある地域には、
うるさい親父さんがひとりいる。
ドラッグストアをやってる親父さんで
このあたりの健康番長だ。
ぼくが最近、
身体を引きずって外をうろうろするので、
その様子を自分の店の奥から見ていたのかもしれない。
で、いま彼が
ぼくのお店の鑑定台の向こうの椅子に座っている。
この人は、たぶん占いとは一生無縁な
フィジカル100%の人だ。
だから、今日は占いをしたくて
来たわけではないんだろうな。
「リノルナ。おまえ、ちゃんと冷やしているか?」
「なにをですか」
「左肩だよ。それから左腕。
たぶん最初は左の手首から始まったんだろう」
「ああ、それなら。
こういうのは、時間が経てば治ります」
健康番長は、スポーツバッグから
品物を取り出して鑑定台の上に並べていく。
湿布薬。氷嚢袋。栄養ドリンク。
「これは俺の道具だ。体の痛みを取るときのな。
いま全部使え。試供品だから、金は取らねえよ」
ぼくは湿布薬の袋を破いて、中身を一枚取り出してみた。
目の高さに持ち上げて、ひらひらと揺らしてみる。
指先に湿布薬のひんやりした感覚が伝わる。
「リノルナ。おまえも商売人なら、
自分の道具をもっと大切に扱え」
ぼくは、鑑定台の上に載っているカード類に目をやった。
「カードのことなら、カードは消耗品。大量生産の、
ただの工業製品です。壊れたら新しいのに交換すればいいだけ」
「そうじゃない。俺が言ってるのは、おまえのその体のことだ。
人間は体が資本だ。替えなんて、ねえんだよ」
いいか。まず、氷嚢で左肩を冷やす。
それから湿布貼れ。気が向いたら栄養ドリンク飲め。
「順番を間違えるなよ。
ぼやぼやしてると、首や腰にも痛みが来るぞ」
健康番長は立ち上がり、店を出る前にこちらをふり返った。
「まったく。お前は子どもかよ。
しばらく夜中の散歩もやめとけ」
ドアがガチャンと
音を立てて閉まる。
「ふうん。そうか。
こういうときは、冷やすのか」
ぼくは氷嚢袋を手に持って、
氷を探しに冷蔵庫のほうに歩いた。
カチン、と氷が音を立てたような気がした。





