占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第25話「迷うのって、楽しい」

午前11時を過ぎたころ。

ぼくは、
お店のソファに座って、
電子レンジで温め直したコーヒーを飲んでいた。

今日は予約は入っていない。

ぼくは立ち上がると、
扉に掛けた札を裏返して、

「Closed」

と表示させた。

今日は臨時休業だ。
いま、決めた。

特別に用事があるわけじゃないけど、
今日はドライブに出かけよう。

ぼくは車に乗り込むと、
エンジンを吹かす。

目的地は、なし。

ハンドルを握ると、
身体感覚がそのまま車体に広がっていく。

考えるより先に、
曲がるか、進むかが決まるから。

この感じが、ぼくは好き。

あてのない道の途中で、
真新しいラーメン屋を見つけた。

お腹空いた。
ぼくは、駐車場に車を乗り入れた。

券売機の前で、
ぼくは時間をかけて、たっぷり迷った。

ラーメンの種類は、
京都で定番のしょうゆ。
あと、塩もあるんだ。

この「大盛り」と「替え玉」の
違いは何だろう。値段が違うね。

ぼくの左手の指先が、
ボタンを選びかけたとき、

ビクン、と小さく痙攣した。

「チャーシューの耳丼」というボタンが、
突然、目に入った。

「耳丼」のボタンを押そうとして、

ふと「ダイエット中」
という言葉が浮かんできた。

迷うのって、楽しい。

ぼくは注文を終えて、
カウンターに座った。

いったいどういうふうに、
どんな順番で、出てくるのだろう。
ドキドキする。面白い。

ラーメンと耳丼は、
とてもおいしかった。

帰ろう。

ぼくのお店に。

最近ぼくは、お店のあるフロアに
もう一部屋借りて、
そこで暮らすようになっていた。

もう夕方になっていた。

部屋に戻る前に、
一度、お店に立ち寄った。

店内を見渡す。
鑑定台の奥の椅子に、
視線が行った。

椅子が、
少しずれているような気がする。

ぼくは、
左手を椅子の背もたれにかけて、

片手だけで椅子を動かそうとしたけど、
左手にうまく力が入らなかった。

結局、右手も使って、
両手で椅子の位置を直した。


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