占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂 第24話「起動」

起動準備に入ったままの感覚が、
皮膚の内側に残っている。

ぼくの頭の中で、非常ベルがけたたましく
鳴り続けている。

その音で頭が混乱する。
うまく考えられない。

でも、
スイッチが勝手にONになる、なんてこと
あるわけがない。

だって、
スイッチがONになった後、
その先にあるものは──

でも。

ぼくはまだ、
なにも踏み込んでいない。
それにこんなこと、誰も知らない。

それでも、このサーチ。

「おかしい」

と思った。

サーチが、噛み合わない。

合わせ鏡みたいに、
視線が、何度も跳ね返ってくる。

サーチの強度が跳ね上がった。
誰かが、いるんだ。

「これは。
 いったい誰のサーチ?」

広範囲の感情や動作が、
一気にぼくの感覚の中に流れ込んでくる。

でも、全部足しても、
ひとつにならない。

誰かが、ぼくを使って、「ぼく」をサーチしているんだ。

分かってしまった。

だって、

これはひとつではない。
全部足してもひとつにならない。

だから──

「おまえは、人の形をしていない何かだ」

ぼくのサーチの視界には、
超望遠の俯瞰で眺めた、静止したぼくの姿がうつっている。

ぼくは、視線の先を遡った。

相手の位置とパワーが分からない。
でも、分かったこともある。

「おまえは、この場所を手に入れるだけじゃ、物足りなくなったんだね」

店の中は、
がらんどうになったみたいに、静かだ。

すべての物品が均等に息を潜めている。

ぼくはひとりごとを言うように、
こう言った。

「でもこれは、人間のしていいことを
 はるかに越えてるよ」

気配は、来なかった。
音は鳴らなかった。

店内に、静寂と静止が広がっていく。

「だからこれは、ぼくの仕事じゃない」

本当は、ぼくだって怖いんだ。

頭の中では、
非常ベルが鳴り響いている。

非常時にだけ行う手順を、
ぼくの身体が、すでに完全な形で開始している。

また、ここに戻って来れるかしら。

ぼくは目線を落とし、意識を集中させる。

静かにつぶやく。

「ここは、わたしの場所だ」

そして、
一歩踏み出した。


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