赤い着物のあの子がいた頃、
リノルナは、お化け退治をしているつもりで、
夜を、昼を歩いていました。

あの子が先を歩く。
ぼくは、少し後ろをついて歩く。

あの子は道を何度も曲がり、
建物の中にも入っていきます。

そして、建物の影が延びているところや、
雑居ビルの中の廊下の行き止まりなどで、
あの子は「それ」を見つける。

ぼくなら、
「それ」を「お化け」と名付けると思いますけどね。

あの子は「それ」に向かって、
自分の身体ごと思いっきりぶつかっていくのです。

ぼくは、ただ、その場所に立ち、
見ていました。

「勝った」とは言えないかもしれないし、
「負けた」とも言えない。

だけれども。

夜は、いつのまにか静寂に包まれていくのです。

ぼくとあの子は、
こんなことを際限なく繰り返していました。

ある夜。

名もなき神社の前で、
あの子は立ち止まりました。

何がある、というわけでもありません。

石段は低く、鳥居の色も褪せていて、
夜の中ではほとんど背景と変わらない。

それでも、
あの子は一歩も進まない。

こちらを振り返ることもなく、
ただ、そこに立っています。

ぼくは、少し後ろで足を止めたまま、
それ以上、あの子に近づかなかった。

「あのさ、おまえは、神様のところに行きたいの?」

<カチン>

それきり。

あの子は、ぼくの目の前から消えました。

一度も振り返ることなく。
ふてぶてしく、笑みを浮かべている
いつものあの子の気配だけを残して。

ぼくはしばらく、
その場に立ったままでした。

夜は、さっきまでと同じように静かで。

遠くを走る車の音だけが、たまに聞こえてきます。
神社の前だからといって、何かが起きる気配はありません。

ぼくは、自分が立っている位置を、
足の裏で確かめました。
一歩も動いていないのに、
さっきまでと世界の重さが少しだけ違う。

あの子の名前を呼ぼうとして、やめました。
呼ぶ必要がない、と感じたからです。

ぼくは家に帰りました。

道はいつもと同じで、街灯の位置も変わっていない。
ただ、先を歩く影だけが、もうありませんでした。

(その2へ)