(はじまり編その6へ)


この3日間のあいだに、リノルナにご加護をいただける神様を探すこと。それも大至急、大急ぎで。

神様に会う。とてつもなく恐ろしいことに感じられました。あんまりいい子じゃないリノルナが神様の前に行ったりなんかしたら、たちまちまばゆい光に照らされて消し飛んでしまうのではないでしょうか。ぼくは新しい白い洋服に着替え、夜を待ちながらブルブル震えていました。

1日目は夜に出掛けます。山の中にある神社。手前の方じゃなくて、奥の方の。たいへん古い神社。

近くには古い井戸があって、遠いむかし大和王朝のころ、当時の女王様が戦いに赴く際、自身が身に付けていた白い鎧を井戸の水に浸して、

「もしこの戦いが勝利するものならば、この白い鎧は赤く染まるであろう」

と占いますと、鎧は赤く染まって戦いは大勝利したとのこと。

持ち物は、なにも持っていってはいけないので、ぼくはお気に入りのポシェットを置きました。山に入ったら一言も言葉を発してはならない。身じろぎしてはならない。家から神社までは直線距離で2キロほどですが、山をひとつ越えてもうひとつの山の中腹辺りまで歩きます。

山に入ってから、おしゃべりしない証しとして、白い和紙で作ったマスクで口許を覆いました。

神社の境内のそばに広場があり、夜神楽のご奉納が行われていました。山の夜道を歩いてきたので、神楽の舞台を照らす明かりがとてもまばゆく感じました。隅に席が用意されていて、遅れて来たぼくはそこでじっと息を殺して身を小さくしておりました。

回りには人間がたくさんいたけれど、ぼくに目を向けたり、注意を払ったりする人は誰もいませんでした。ぼくは身体中に電流が走って、ビリビリ痺れているのを感じました。神様がいらっしゃっているのでしょうか。警報級のとてつもないパワーを感じます。意識が何度か飛んでいたと思います。

気がつくと、祖母に手を引かれて、ふたたび山道を歩いていました。まだ全身がビリビリします。全身の配線がショートして、ぶすぶす煙を上げているみたい。焦げ臭いにおいまでします。ぼくは壊れたロボットみたいな足取りで家まで帰りました。

翌日の朝。

「どうでしたか。ご加護を頂けましたか」

と祖母はぼくに尋ねました。どうなのでしょうか。あれから身体中に微かに電気が流れ続けています。体がビリビリ、ビクビクと振動しています。ご加護の証しなのでしょうか。

祖母は、ご加護を頂けたとぼくが言うのを期待しているみたい。ふだんのぼくならば誰かの期待どおりの行動や言動を取るのですけど。なぜならば、ぼくは「いい子」になりたいのです。

でもこのときは、ぼくの思っていたことと違う言葉が勝手に口をついて出ていました。

「いいえ。わたしはご加護を頂けませんでした」

2日目。祖母とぼくは町の方にある、海辺の神社に向かいます。

(その2へ)