新年度。新しくスタートダッシュを決める。春は新しく何かを始めるのに、うってつけの季節です。

リノルナは京都で占い師をしていますので、春が巡ってくるこの頃、いつも感慨に耽(ふけ)るのですね。

なぜならば、京都は【大学都市】だから。なにせ、京都には38の大学・短期大学があるのです。毎年、各大学が新入生を受け入れる春の季節になりますと、若い人たちの顔ぶれががらりと変わっていくのですね。

住む人が変われば、それにつれて京都という土地も、毎年、新しく生まれ変わっていくわけです。これはね、毎年のことながら、ちょっとした壮観であります。

でもね、スタートダッシュとか、新しく何かを始めるとかって、本当はどういう意味なのでしょうね。

西洋占術における意味で考えますと、タロットの【魔術師】とか。ルノルマンカードの【騎手】とか。西洋占星術の【おひつじ座】とかが該当しますよね。これらはみんな【スタートダッシュ】【新しく始める】という意味を持っておるのです。

これらに共通するのは、【一番目に位置する】というところ。

魔術師のカードにはローマ数字の『I』が刻印されていますし、騎手のカードはアラビア数字で『1』とナンバリングされています。

おひつじ座は、春分点の開始点ですから、これも一番目。

1なるもの。自分が存在しているということ。自分らしくあること。これが【スタートダッシュ・新しく始める】の本質なのです。

京都市在住の20歳代前半の女性から、お仕事についての相談を受けたことがあります。

彼女は学生時代を過ごした京都で、バーテンダーの仕事をしていた。オーセンティックで素敵なバーなのですよ。学生時代からアルバイトで経験を積んでいて、いまはそのバーで働いているけれど、夢は、いつか5つ星ホテルのバーで、バーテンダーをすること。

ただし、彼女の母親が反対している。せっかく教職の資格を取ったんだから学校の先生になってほしいと言うのです。彼女の姉妹たちも「バーテンダーなんて水商売なんでしょ、気持ち悪い」と味方になってくれない。

ぼくは、ルノルマンカードで占ってみました。

5つ星ホテルを目指して、オーセンティック・バーで経験を積むというアイデアは、悪くない。むしろ、首尾よく行きそうです。

問題は、家族を説得できるかどうか。バーテンダーって、そんなにダメな職業なんでしょうか。水商売って、そんなに気持ち悪いものなのでしょうか。

ぼくは、カードを一枚引きます。

すると【騎手】のカードが現れた。騎手は、一般的な意味では『よい知らせが舞い込む。待っているほうがいい』みたいな意味。でも、ぼくはその意味を採用しなかった。

ぼくは、騎手のカードを示しながら、
「あなたの本当にしたいことを、するほうが良いみたいですね」
とアドバイスをしました。

あなたはバーテンダーになりたいの? 家族に認められたいの? どっち? とカードが囁(ささや)いているような気がしたのです。

結局、彼女は実家を出て(騎手には『引越し』という意味もある)、バーテンダーを続けることにしました。そして、ついに念願の5つ星ホテルのバーテンダーに採用されました。

ある日、彼女は家族を職場に招待したそうです。

一流の宿泊客たちがくつろぐ、重厚で、豪華でラグジュアリーでありながら、あえて、すこし控えめな演出をほどこした空間で。 彼女はシェイカーを振ったのです。

姉妹のそれぞれに、色違いのカクテルを。お酒を飲まない母親には、ノンアルコールのカクテルを。品よく、知性さえ感じる見事な手際で。瞬く間にカクテルが出来上がる様子に、彼女たちは目を丸くして、息をのむばかりだったそうです。

別の日、彼女はぼくのためにも、カクテルを作ってくれました。ぼくも近頃は禁酒をしているのですがね。

「では、母に作ったものと同じものを」
と彼女は、カクテルグラスをぼくの目の前に置きました。

その味は、というと。
とてもスパイシーでパンチが効いていて。芯が強くて、決してぶれない感じが、とても彼女らしいな、と思いましたよ。