占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第50話「古書店主人」

満月の夜。
リノルナは、左手にウサギ人形を差し込んだまま、
京都の路地裏を移動している。
通路とはいえない
建物と建物のあいだの部分で
すごくせまい隙間みたいな場所から出ようとしている。
目の前には
ビールケースに壊れたビニール傘が一本
バリケードみたいに置かれている。
このビールケースは、またいで次に進むのが
よさそうかな。
「こういう順路は、非常用に取っておくもんだぜ」
満月のおかげで、
目が慣れると昼間みたいだ。
ぼくはせまい隙間から顔を上げ、夜空を見る。
満月と、
そのとなりに木星が輝いている。
木星の公転周期は12年。
そして月は24時間だから、
あまり動かない木星のとなりに、満月がやってきた。
っていうほうがいいのかも。
ぼくは
傘の骨に気を付けて、ビールケースをまたいだ。
いつものアーケード商店街に出た。
うまくいった。
古書店のシャッターが開いている。
――こんな、夜更けにでもね。
服についた埃を
時間をかけてはらい落とし、
店に入る。
山のように本が積まれた奥のほうから
主人が立ち上がり、
ぼくの目の前まで歩いてきた。
「リノルナさんに、渡すものがいくつか入ったよ」
そう言うと
主人は奥に入っていき、数冊の本を手に持って戻ってきた。
・プロレスラー必殺技名鑑
・プロレス語辞典
・The SureFire Low Light Combat Manual
「これで全部?」
「そう。これで全部」
「じゃあ3冊だね。お代はいくら払えばいいの?」
「いつものように、つけ払いでけっこうですよ」
主人は、あらたまった顔で付け足した。
「くれぐれも順番に気を付けてくださいよ」
ぼくは本を3冊抱えて、店を出た。
ふり返ると、
店はもうシャッターを下ろしてしまっていた。
「おい、おまえ。その3冊で戦争でも始めるのかよ」





