
占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第53話「目覚めるお化け」
あれ?いつからここにいたんでしたっけ。 眠っていたのかな。
リノルナはロッカーがたくさん並んでいる小部屋に立っていました。プールの更衣室に似ているけど、リノリウムの床の印象が、ここはお仕事をする場所みたいに感じさせます。
1つ目のロッカーを開けてみます。
空っぽだ。
2つ目。3つ目。なにも入っていない。
8つ目のロッカーを開けると下に帽子が落ちていました。
手に取ると、古ぼけた大きな野球帽みたい。匂いはありません。
ぼくは野球帽を被ってみました。
サイズが大きすぎて、ぶかぶかで。 たぶんきっとキャスケットみたいになっている感じがします。
鏡で確認してみたいけど、ロッカーの扉の裏についている鏡は位置が高すぎて顔が映りません。
小部屋からは廊下が伸びていて、どこかに続いているみたい。暗いまっすぐな廊下の向こうに明かりが見えます。
お化けがいたら、どうしよう。 サーチをしてみても、なにもいないみたいだけど。
ぼくは廊下を歩いていきます。
幅の狭い廊下。壁紙のないコンクリートの壁。
あたりはひんやりとして、レイアンシツにでも続いていそう。
廊下の脇から、明かりが漏れ出しています。
ついたところは、 厨房でした。
天井には大きな蛍光灯が二本。チカチカと青白い光を放っています。
大きな冷蔵庫に目がいきました。
なにが入っているのかな。
冷蔵庫の扉を開けると、 透明な袋に入ったお菓子や色んな色のついた飲み物がたくさん入っています。
どれにしよう。
透明な袋に入ったマドレーヌをふたつ選んで、ポシェットにしまいました。
赤い色の液体が入ったペットボトルが気に入ったけど、 手に持つとすこし重たい。
結局、 みかんの絵が印刷されている缶を持っていくことにしました。
両手で飲み物の缶をおなかの辺りで抱えるように持つと、 ぼくは厨房を後にしました。
廊下の続きを歩きます。
廊下は端まで行くと、右側に折れていました。
廊下を抜けると、とても広い空間に出ました。
床にはふかふかした絨毯が敷かれていて、壁にはすてきな壁紙が張られています。
木製のテーブルや扉付きの棚や「調度品」もたくさん置かれていました。
奥の方はたくさんの小部屋に仕切られていて、 それぞれ木製の椅子とテーブルが置かれているようでした。
影になっている部分がたくさんあって、お化けが隠れていそう。 でもサーチしてみても、なにもいませんでした。
広いほうの空間はガラス張りの壁になっていて、外の植木が見えます。 自動ドアがあって、そばには立ち机が置いてあります。
ぼくは広いほうの空間へ歩いていきました。
自動ドアは開きませんでした。
ドアのそばに寄ってみても、少し離れてみても、 上に向かって手を振ってみても、なにも起きません。
振り返ると、螺旋階段があることに気がつきました。
手すりを持って上りたいけど、 両手はみかんの缶で塞がっています。
ふと、ぼくは両手が冷たくなっていることに気づきました。
冷たいみかんの缶を階段の一段目に置いて、 両手に息を吹きかけました。
缶を服の前の部分にくるんで持ち、 階段を一歩ずつ上りました。
上の階は、吹き抜けになっていて、 一階の絨毯の模様がよく見えます。
天井にはいくつかシャンデリアが吊るしてありますが、 明かりは灯っていませんでした。
奥のくらがりに、家具が乱暴に積まれています。
ぼくは手すりに沿って、奥のほうまで歩きました。
もしも落とし穴があって、 そこから落ちたらと思うと、足に力が入りません。
部屋の真ん中に黒い塊があって、 それが事務机だと気づきました。
あそこまで行ってみよう。
近づくと、背の高い椅子もありました。
事務机に缶を置き、つぎに椅子を近づけて、 よじ登るように椅子に腰掛けました。
ポシェットから潰れて変な形のマドレーヌを取り出して、
机の上に並べます。
ひとつは自分の前に。
もうひとつは、向かい側の、誰も座っていない椅子の前に。
いつのまにか、 みかんの缶の上のところが、めちゃくちゃに引き裂かれていました。
缶の中には、みかんの実とシロップがたっぷり入っていました。
引き裂かれた部分で口を切らないように、 気をつけながら、シロップをひとくち味わいました。
「おまえの分もあるよ。食べる?」
<カチン>
と音がしました。
食べると言ったくせに、ひとつ余りました。
ほかに余ったのは、 みかんのシロップ半分と、みかんの実がたくさん。
でもここに置いていけば、 アリが来て食べるかもしれない。
ぼくは来た道を戻ることにしました。
ロッカーのある部屋に戻ったけれど、 取っ手がついていないドアがあるだけ。
どうしよう。
ポシェットに手を突っ込むと、 薄手のスカーフが出てきました。
スカーフをリノリウムの床に広げて、 ぼくは腰を下ろします。
それから、 ドアの取っ手があるべき場所を見つめます。
すると口をついて言葉が出てきました。
「ここは、わたしが、帽子をかぶって、探検をして、おやつを食べた場所だから、わたしの場所」
<カチン>
と、廊下の奥のほうから音がしました。
音のした廊下の向こうを覗き込もうとしたとき、
ゴン、と乾いた音がして ドアと壁の一部がなくなって、穴が空いていました。
外に出られそう。
ドアや壁だったものの残骸を乗り越えているうちに ぼくはいつのまにか、外に出ていました。
地面にウサギの人形が落ちていました。
「わあ、可愛いハンドパペット!」
「よお。やっとみつけたぜ」
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