リノルナは男性ですが、バイセクシャルなので、女性にも男性にも恋をする(可能性がある)のです。

ぼくがまだ20歳くらいの頃、ある男性とお付き合いしていたことがありました。あんまり深い仲にはならなかったんですけどね。

彼は、ゲイの男性だったので、男の人に恋をして、男の人を愛するわけですね。

そして良くないことが起こってしまった。つまり、ぼくが男の人に興味がある素振りを見て、彼はぼくのことをゲイの男性だと思い込んでしまったのです。

ゲイとバイセクシャル、もっとマイルドに言えば、彼とぼく。二人の恋愛プロセスは、まさに似て非なるものなのに。

当時、ぼくは【バイセクシャル】という言葉は知っていたけど、このワードを使って自分のアイデンティティを明確に表現することは、まだ出来なかった。

彼は『ゲイ』というワードで自分自身を考える代わりに、『あっちの世界』という言葉をよく使いました。

あっちの世界ーー。つまり【異性愛者の世界】においては、彼は高学歴のエリート商社マンなのだそうです。世界中を出張して回るので、自宅のマンションはいつも留守にしていました。

ぼくは、彼から自宅の合鍵を預かっていました。万が一、彼が海外出張中、飛行機事故で死んだとき、処分してほしいという物品のリストと共に。

彼は、部屋を自由に使っていいと言ってくれましたが、ぼくのほうでは、とくに活用したい用事も思い付かなかったのです。

ぼくが合鍵を使うのは、ときおり留守宅を掃除をしてあげに行くときとか。それから彼が帰国する日には、寂しくないように料理を作って待っていてあげたりとかね。

「それは、もう恋愛。キミは彼に恋をしている。認めたほうがいい」

と、当時いわゆる『こっちの世界』(同性愛者の世界)の女性に言われましたけど、ぼくにとっては、この程度では『恋愛』とは言えない。なぜならば、ぼくは彼の頼みを聞いてあげてるだけなのだから。せいぜい『友情』という感じでしょうか。

ぼくの体感では、バイセクシャルの人は、恋愛モードに入るために必要な潜在期間がとても長いのです。それに関係性もとても大切。知り合い→友だち→親友→恋人→パートナー、とトーナメントを勝ち進んで来てくれなくては困るのです。

いまのぼくのパートナーは、友だちであり、親友であり、恋人であり、配偶者である。という、ぼくの関係性のすべてを持ち合わせているタイトルホルダーのような存在。

もしかしたら当時の彼とも、もっと長いお付き合いになれば、友情→恋愛感情→愛情みたいに、すこしずつランクアップしたかもしれませんけど。

彼は『こっちの世界』では、すこし受動的で、女性的な感性を持っていました。

(後編につづく)