
占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第28話「OPEN」
今日は朝から、心地が良かった。
お店の照明を点け、
ところどころに置いたランプを点けて回る。
どんぐり型のスピーカーのスイッチを入れ、
BGMを流し始める。
空気清浄機のスイッチを入れる。
ぼくはお店の書き物机の前の椅子に腰かけて、
電子レンジで温めたコーヒーを飲んで待っていた。
そろそろ12時になる。
今日もお客さんたちがやってくる。
今日も、占いをしよう。
忙しい一日になるかも。
あるいは、ならないかも。
どちらでもいい。
今日の予約は、一件だけ。
いったいどんな人が来るんだろう。
うれしい。楽しみ。
今日はどうして、
こんなに心が浮き立つのだろう。
なんだか、お休みの日みたい。
電子レンジで温めただけのコーヒーを飲みながら、
少し考える。
ぼくもたまには考える。
もしかしたら、
このコーヒーのパックが、すごく良い物なのかな。
ぼくは冷蔵庫からパックを取り出すと、
手にとって、しげしげと眺めた。
コン、コン。
店の扉の方から、
小さなノックの音がした。
「あの、予約をした者ですが、今日はお店やってますか?
初めてで、よくわからなくて」
「あ、ご予約の方ですね。はい、やっていますよ。
ようこそ、お越しくださいました」
鑑定台の前の椅子を勧め、
お客様カードに記入をしてもらう。
予約の内容を確認して
前払いの料金を精算する。
占いを始める。
「恋愛」の相談だったけど、
可能性がとてもたくさんあった。
そのひとつずつを点検したけど、
どの可能性を選んでも、大きな「危険」は発生しない。
意中の彼を選んでもいいし、すこし待ってみてもいい。
鑑定はすんなり進んだ。
でも、タイマーが鳴らなかった。
「あれ? まだ10分も余っていますね。
なにか他に聞きたいこと、ありますか」
「いいえ。わたし、いまの答えで満足しました。
先生さえ、よろしければ私はこれで」
その人は満足そうに帰っていった。
その日は、
結局、それっきり。
夜になり、
ぼくは店を閉める手順をしていた。
天井の照明を落として、
バンカーランプの明かりだけにする。
カードを片付け、
布でテーブルを拭く。
椅子を整える。
ぼくはエントランスに出て、
エレベーターホールの前の防火扉を閉じた。
そして、お店の扉の札を裏返そうと、
振り返った時、
「わあ」
と、ぼくはおもわず声を上げてしまった。
表の札は「CLOSED」のまま。
そうか。
だから、あの人は
ノックしたんだ。





