
占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第58話「ダウンバースト」
ポツポツと、冷たい雨粒が顔にかかって、
目が冷めました。
それまでは心地の良いお部屋で
ぐっすり眠っていたと思っていたのですが、
ぼくは草むらのなかで、
仰向けに倒れているところでした。
「わたしは、いま何をしていたところでしたっけ?」
ぼくは、身の回りを確かめます。
身体の近くにポシェットが置かれていました。
まずは、ポシェット。
すこし離れたところに、ウサギのハンドパペットが
ぐったりした様子で、転がっています。
ぼくは、たっぷりと水分を含んで
重たくなったウサギを抱き寄せます。
ぼくは、自分の服がビリビリに
引き裂かれているのに気が付きました。
ぼくは、激しい戦いをしていたのかもしれません。
ウサギは一言も口を利きませんでした。
ウサギは、水を含むと機能を停止するのかもしれません。
雨が激しくなってきました。風も強くなってきたようです。
草が横向きになびいています。
草むらは傾斜していて、遠く下方にはポツンと林があり、
草むらは、はるか先の森まで続いているようでした。
風が丸みのある塊になって、
草むらを押し付けながら、つぎつぎに傾斜を下っていきます。
空から鳥が落ちてきて、
草むらにドスンと叩きつけられます。
みるまに猛烈な風が追いつき、
あたりは真っ暗になり、横殴りの暴風雨がやってきました。
草を掴んでいないと、たちまち飛ばされてしまいそうです。
木の枝や、箱や鳥などが飛んできます。
雨に濡れた草はとても滑って、手が離れてしまうたび、
身体が傾斜を滑り落ちます。ぼくはウサギを服の中に入れて、両手で草を掴みます。
風を切る甲高い音の中で、
かすかにカチン、と音が響きました。
傾斜の下の方から聞こえるみたい。
首だけをなんとか後方に向けてみると、
はるか下の林の中から音がしているみたいです。
カチン、とまたかすかに音がしました。
林の中に逃げたほうがいいのかもしれません。
ここにいたら、枝か箱か鳥のどれかで頭を打って
死んでしまうかもしれない。
ぼくは草から手を放し、立ち上がろうとしたとき、
風がものすごい圧力で、ぼくの身体を宙に舞い上げました。
しばらく宙を飛んで、またものすごい圧力がやってきて、
ぼくの身体は地面に叩きつけられ、そのまま傾斜をゴロゴロ転がっていきます。
林にたどり着くと、風の音は静かになり、
風も雨もあまり入ってこれないことを知りました。
なるべく大きな木の近くにいよう。
ぼくは好ましい木を見つけ、根元に腰掛け、
ウサギを取り出して、手当をしました。
雑巾のように絞り、水をできるだけ出します。
綿の詰まった頭の部分が硬くて、
うまくいきません。
焚き火でもして乾かすほうが早いかな。
ポシェットを調べると、
蝋引きボール紙のケースの中に、ライターとタバコが入っていました。
ライターを手に持って、なにか燃やせるものを探しましたが、
なにも見当たりません。
ぼくはウサギを乾かすのを諦めて、
タバコを一本吸いたいな、と思いました。
ぼくのサーチに反応があることに気が付きました。
この林の中に、なにかいるみたいです。
ぼくは木を一本ずつ盾にしながら、反応地点に近づきます。
この木の先に、なにかいます。
ぼくは木の陰から出て、様子を伺いました。
雨合羽を着た人間の男が、木の根元に座っています。
リュックと隣において、両手にはマグカップを持って、
温かいコーヒーを飲んでいるところでした。
人間のほうも、ぼくのほうを見ています。
「きみは、精霊か何かなのかい?」
と、人間は言いました。
「わたしは精霊ではないです。お化けでもないですよ」
「じゃあ、人間?幻覚ではなく、実在している?」
「それは、わたしにはわかりません」
「温かいコーヒーを分けてあげたいけど、もしきみにこのマグカップを渡したら、
マグカップとともにきみは消えてなくなるかもしれない。
このマグカップはぼくの大事なマグカップなんだ」
「そうなんですね。
それなら、わたしにマグカップを渡さないほうがいいですよ」





