占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第22話「白紙委任」

その人は、最初から結論を持って、
お店にやってきた。

「今日は、占いというより、確認に来ました」

そう言って、鑑定台の前に座る。
姿勢がいい。視線がぶれない。

「確認、ですか」
「はい。先生が見て、どう思うかを」

ぼくは、カードを出さなかった。
星も、まだ見ていない。

話を聞く前から、分かっていたからだ。

「地域の統合計画が、最終段階に入りまして」

まただ、と思った。
でも、顔には出さない。

学校の統廃合。

病院の集約。

バス路線の廃止。

「どこを残すかは、もう数字で決まっています」

彼はそう言って、続けた。

「でも、それだと納得しない人が出る」
「だから、ぼくに?」

「はい」

真っ直ぐな目だった。

「“見える人”が言った、という形が必要なんです」

空気が、少しだけ硬くなる。

「先生が言えば、皆、従います」

それは自信じゃない。
事実の提示だった。

「責任は、こちらで取ります」

ぼくは、少し考えた。
いや、考えたふりをした。

「でもそれは」

静かに、言う。

「占い師の仕事じゃないんです」

相手は、驚かなかった。

「そう言うと思ってました」

そして、こう続けた。

「でも、それでもお願いしたいんです」

誰かが決めないと、前に進めない。誰かが憎まれ役をやらないと、
町は壊れる。先生は、その“誰か”になれるーー

店の奥で、なにかが、きしんだ気がした。
でも、音は鳴らない。

「ぼくは」

ゆっくり、言葉を選ぶ。

「たぶん、決めないことで、
 守れるものもあると思うんですけどね」

「でも、何も決めないのは、無責任だって言われますよ」

「まあ、たしかに」

ぼくは頷いた。

「だから、ぼくは無責任だって、よく言われるんです」

相手は、初めて言葉に詰まった。

「……それでも?」

「それでも」

彼は、しばらく黙ってから、立ち上がった。

「分かりました。
 先生は、そういう人なんですね」

扉が閉まる。

静かだった。
ぼくは、鑑定台の前に立ったまま、動かなかった。

「そういうのって」

小さく、つぶやく。

「引き受けた瞬間に、
 世界の一部になるっていうことなんだから」

今日は、まだ音は鳴らなかった。

でも。
境界が、確実に、薄くなっているのは、よく分かった。