占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂 第16話「印のある壁」

閉店後のほしよみ堂は、
照明が半分落とされ、鑑定台の上を整理する影だけが規則的に動いている。

リノルナは見映えのする外見と裏腹に、気配というものをほとんど持っていなかった。
だからリノルナがいても、店には人の気配はしない。

扉が鳴った。
軽い音だった。

入ってきたのは、【筋】の道具屋だった。
今日は紙袋を持っていない。

「今、少しお時間よろしいですか」

リノルナは返事をせず、最後の椅子を元の位置に戻した。

道具屋は、鑑定台の方へは行かず、
講座用の会議テーブルの方の椅子を引っ張り出し、腰を下ろした。
その距離は、いつもと同じだった。

「場所の件でして」

「ニュータウンの奥に、小学校がありまして」
「山側です。造成と、ほぼ同じ時期ですね」

「統合が決まっていまして」
「来年いっぱい使って、それで終わりになります」

事故はない。
破損もない。
補修は続いている。

「壊れてはいません」
「きちんと使われています」

校舎はまだ使われている。
掃除もされている。
設備も、規定通り残っている。

「建物としては問題ないんです」
「ただ、その先が決まっていない」

「リノルナさん、状態を確認して来てください」
「校舎の東側の外壁です。触れる場所は、こちらの指定に従って頂きます」

「印が付いているところだけです。それ以外は、見なくて結構です」
「そこに正確に手を当ててください。何もなければ、それで話は終わります」

リノルナは、ミニキッチンの引き出しを閉めた。
音は立てなかった。

「今回は、行かない」

道具屋は、すぐには返事をしなかった。
店内を一度、ゆっくり見回した。

「理由は?」

「言わない」

道具屋は小さく息を吐いた。
それは、ため息ではなかった。

「……承知しました」

それ以上、話は続かなかった。
道具屋は立ち上がり、扉の前で一度だけ振り返った。

「ほかにも、いくつか当たってはいますので」

そう言って、外へ出た。

扉が閉まった。
音は、やはり軽かった。