
占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂 第18話「均される日」
「今日は、お客さんぜんぜん来ないな」
と、ぼくはひとり、つぶやいた。
昨日までは、お店は大賑わいだった。
予約は満了。
満員御礼。
いったい何組のお客さんを、
「今日はもういっぱいでして」と
断ったことか。
予約を入れてくれていたお客さんたちにも、
時間がどんどん押してしまって、
最後のお客さんには、
ずいぶんお待たせしてしまった。
そういう日もある。
珍しいことじゃない。
むしろ、よくある話。
ただ、
今日は、とても静かだ。
静かすぎて、
店が呼吸している音まで、
聞こえてしまいそうだった。
レースのカーテンを開けて、
窓の外を眺める。
目の下を、河原町通りが横切っている。
いつもなら、
車の音や、歩く人の気配が
絶えないはずの時間帯なのに、
今日は、通りがすこし広く見えた。
「今日は京都全体に、人がいないのかしら」
そんなわけはない、と分かっている。
ただ、そう思ってしまうくらい、
世界が遠い。
毎日、均等にお客さんが来てくれたら、
楽なのにな。
そう思ったあとで、
自分が少し、疲れていることに気づいた。
ぼくは棚に手を伸ばし、
東洋医学に通じた置き薬屋から仕入れている、
特別製の高価な栄養ドリンクを一瓶、取り出した。
味は、あまり好きじゃないんだけど。
でも、今日は必要な気がした。
ガチャン。
扉が開いた音がして、
顔を上げる。
常連客のひとりだった。
「ああ、良かった。今日は空いてますね」
「占いですか」
「もちろん!
先生は占い師じゃないですか。
ちょっと見てほしいことがあって」
たしかに。
そうだった。
占いをしよう。
いつも通り、
カードを並べ、
星の話をして、
いま立っている位置を確認する。
特別なことは、何もない。
でも、それでいい。
帰り際、
その人は、少し首をかしげて言った。
「先生。今日はあまりしゃべりませんね。
ふだんは、あんなにマシンガントークなのに」
それから、
気づかうように笑って、続ける。
「体調、気をつけてくださいね」
扉が閉まる。
店内には、また静けさが戻った。
ぼくは椅子に腰を下ろし、
何も置かれていない鑑定台を見た。
そのとたん、
ぼくはあることに気がついて、
反射的に椅子から立ち上がった。
レースのカーテンをすこし乱暴に開く。
車の通らない、人の気配のない通り。
「そうか。
均されているんだ」
理由は、まだ分からない。
でも、分かってしまった。
世界がすこし、近づいてきている。





