占い師になる前のことですが、若き日のリノルナはお化け退治が得意だったんですよ。

お化け退治を始めたきっかけは、ひょんなことからなんです。はじめは、ぼくだってお化け退治を商売にしようなんて、考えてもいませんでしたよ。

いまから30年近く前ですが、アメリカから帰国したばかりの20歳くらいの頃。ぼくは大阪のとある小さなビジネスホテルでフロント係をしていました。テレビ局などが多く集まっている繁華街です。当時、その界隈(かいわい)は夜になるとロシア人の若い女性たちが通りに立って客を引いていて、元締めみたいなヤクザが歩き回っていて、そこにネタ探しのマスコミ関係者が加わって、あたりは猥雑(わいざつ)で混沌(こんとん)とした雰囲気でした。

こうした立地なので、テレビ局の人たちが打ち合わせのために部屋を使ったり、ヤクザが拳銃の売買のために部屋を使ったりと、不思議なご利用の多いホテルなわけ。もちろん拳銃を取引したそのヤクザはタレコミがあって警察に踏み込まれて、その場で捕まりました。

どんな客にも部屋を貸す。ホテルも商売。だからと言ってヤクザに部屋を貸すなんて! 若き日のリノルナは正義感に燃えて、ひとり怒っておりました。

でもこのホテルには、一室だけ誰にも貸さない客室がありました。いわゆる「出る」部屋なんです。女性の霊が出るので、客を泊めるとかならずトラブルになるというので、使用禁止になった部屋です。従業員の間ではなんとなく「あの部屋」と呼ばれていました。

「リノルナくん、あの部屋で一泊してみてくれないかな」とある日、社長に言われました。

社長というのは、もちろんこのホテルの社長だけど、本業は不動産屋兼土建屋の社長さんで。土建屋さんという職業は、お化けや土地の霊障に遭遇しやすいんです。だから大真面目にあの部屋を使用禁止にしたし、またあの部屋を使えるようにして利益を上げたいと心から思っている。毎月従業員総出でお稲荷さんの祠にお参りし、節分にはこれまた従業員総出でその年の恵方に向かって巻き寿司を無言で食べきる儀式もする。「恵方巻」っていう儀式をぼくはこのホテルではじめて知りました。だから、これは切実で真面目な依頼。

なぜぼくに声がかかったかと言えば、それは採用面接の時に提出した履歴書の特技の欄に「英会話、占い、霊能力、お化け退治」と書かれていたから。

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