(その2に戻る)


ぼくはお化けの姿を視覚として捉えることができません。なぜならば、幼少の頃リノルナは憑依体質が度を過ぎていたため、自分や周囲にとんでもなく悪影響を与えていたため、祖母の尽力によって、ぼくの霊力の一部がブロックされているからです。

ただし、霊能力者であるリノルナは、霊的な存在のパワーを感知することができます。なおかつ長年の憑依の訓練によって、自分のまわりに霊的な拠点を作り出し、その拠点を使ってお化けを制圧したり、その拠点を防衛することが出来るようになりました。

つまりお化けのパワーの量や、自分からお化けまでの距離と方向が分かり、かつお化けをやっつけることができるというわけ。

あの部屋の明度がだんだんと下がって、くらやみのちからが増してきました。ぼくのほうも負けないように、自分の陣地を主張します。まずテレビをつけて、コーラを飲んで、それからどうしようかな、そうだこの美味しそうなミックスピザをひとかけら!手に取るとまだ熱々でチーズが伸びてきて、めちゃくちゃ美味しそう!

テレビの画面がバチン!と音を立てて真っ暗になりました。それからバスルームからガコン、ボコンとすごい音が響きます。

ぼくの戦い方は、拠点をつくったらあとは全自動。便利ですけど、手加減がまったくできません。まるで実体のないぼくがもう一人いるみたいな感じ。霊体のほうのぼくがいままさにお化けと近接戦闘を楽しんでいる、といったところでしょうか。ドッカン、ボッカンと威勢のいい音が響いてきます。バスルーム、原形を保っていてくれるかしら。

お化けのパワーはぼくの背後と、バスルームから感じます。

ぼくは右手にチキン、左手にピザという状態なので、テレビが壊れちゃったのか主電源をオンオフして確かめてみたいのだけど、両手が使えなくて無理。手が3本あったらいいのに。でも手が3本あったら、テレビじゃなくていまはコーラが飲みたいかも。

ぼくはお化けのことをサーチしてみました。これなら手は要りません。サーチの結果、パワーはぼくの背後とバスルームで感じるけど、お化けは2体いるわけではなくて、どうやら力を分散させているようでした。

お化けとの戦いは、お互いの霊格の勝負。霊格が高いほうが勝つ。そして、ぼくの霊格はめちゃくちゃ高いのです。お化けのほうは、どうやら初心者さん。ぼくに気を取られて、パワーが集中できていません。

<ガチャン>

バスルームからミラーが割れるような音がしました。備品が壊れては一大事なので、食べ物を放り出して確認に走りました。あんなに大きな音が響いていたバスルームのなかは、不思議なことにものが動いた形跡はひとつもなく、あるべきところにあるべきものがあり、まったく整然としていました。よかった、ミラーも割れていませんでした。

そのままバスルームの備品のチェックをしていると、

<ゴボン>

と、今度は部屋のほうから、段ボール箱を乱暴に解体するような鈍い音が響きました。そして、テレビ番組の笑い声が聞こえてきました。

(あ、終わったんだ。)

テレビも壊れていなくて、よかった。

ぼくはそのまま、テレビを観ながら残りの食事を済ませました。そしてシャワーを浴びて、ベッドに入り眠りにつきました。

「お化けを確認して、退治しました。あの部屋にお客様をお泊めしても、もうクレームは来ませんよ」

翌日、社長にそのように報告し、金一封を貰いました。カラオケ部門と厨房部門のチーフたちも集まってきます。

そしてチーフはぼくにお会計伝票を手渡しました。

「ピザ代、チキン代、ポテト代」

あ、あれって、有料だったんだ。。

(了)