
休暇が終わって東京に戻って来ても、その『足のお化け』はぼくに憑いてきていました。
リノルナは一日に何回も意識が飛ぶようになり、小学校では授業に集中することが出来なくなりました。たったいま教室で授業を受けていたはずなのに、ふと気がつくと校庭の隅のビワの木の木陰に立っていて、木の枝をぼんやり見上げていたりしました。
ある雨の日、3時間目の社会の授業中。先生が「誰か準備室から吊り下げ式の世界地図を持ってきてほしい」とクラスの子達にお願いをするので、ぼくは手をあげました。
ぼくは人の役に立つのが大好きだったので、喜んで志願して教室を出たのです。教室から準備室は5分もあれば行って帰ってこれます。でもぼくは途中で意識を失って、帰ってこなかった。またリノルナちゃんが行方不明になった、と教室中が大騒ぎになりました。
結局、ぼくは校舎の裏の理科実習用のヘチマ棚のところで、冷たい雨に打たれて唇を紫にしながら佇んでいるところを発見されました。
母が迎えに来て、ぼくは家に帰されました。お腹に激痛が走り、高熱も出て、とても起きていられなかったので、母に布団を敷いてもらい横になりました。
すると母方の祖母から電話が掛かってきました。母が出て、しばらく話していました。
「いま、おばあちゃんが、リノルナちゃんのお守り袋の中身を調べてみてって。だから、ちょっとお腹出すね」
と母が言い、掛け布団を捲り、ぼくのパジャマを捲り、いつも首から掛けているお守り袋から和紙に包まれたものを取り出します。
「ああ。ほんとだ、やっちゃってるね」
和紙を開いて、観音菩薩の焼き印の入った短めのアイスの棒のようなものが真っ二つに割れているのを確認すると、母はふたたび祖母に電話を掛けました。
「おばあちゃんが、お守り新しいやつ急いで送ってくれるって。でも届くのに何日もかかる。というわけで第2段階。すごいやつ、やってあげる。秘密兵器。リノルナ気に入ると思う」
母はタンスの一番上の引き出しから、赤い布に金糸と銀糸の刺繍の入った綺麗な巾着袋を取り出しました。中に石が二つ入っています。灰色のスジが入ったイビツな黒い石と、たまごみたいに滑らかな白い石。どちらも光沢があってスベスベしています。
「さて。こういうときはどっちだったか。覚えてないから、一つずつ試してみよう。いま聞けばよかったけど、わたし怒られるのイヤだから。リノルナ痛かったら言って。痛いのは違うから」
(その3へ)





