なんとなく、あとがきを書いてみようかな、と思って書きました。

このシリーズは、実話(とリノルナが思っていること)をベースにしています。
なので基本的には、ぼくが体感したことを、そのままの感触で書いています。

あとから自分で読み返してみると、
リノルナと赤い着物の子の心情や行動について、
ずいぶん説明の少ない、余白の多い語りだな、と感じました。

「はじまり」「能力強化」などは、
バトル物の少年漫画の文脈を借りてはいるものの、
能力の数値化も、戦闘力のハイパーインフレ化も、
派手な戦闘シーンも、ほとんどありません。

もちろん、
意図的に説明をしないようにしている部分もあります。

ただ、ここで少し告白してしまうと、
このシリーズには、リノルナが出会うはずだったのに、
結局出会わなかった存在が、いくつかあります。

書き漏らしや省略ではなくて。

作中のリノルナがその人や存在に出会えば、この物語の構造そのものが壊れてしまう。
そう感じる瞬間が、何度かありました。

作者として、「出会わない」という選択をする以外には、
リノルナがあんなふうに世界と呼応しつづけることは、出来なかったかもしれません。

以下に書いているのは、
シリーズを通して読んでみて、ぼく自身が感じたことです。
裏設定の公開でも、答え合わせでもありません。

なので、
あなたの中にある物語のイメージが壊れることは、
たぶん、ないと思います。

――霊能力者リノルナのお化け退治!について

このシリーズで描いているのは、一般的にイメージされる「お化け退治」とは、少し違うものです。悪を倒して、因縁を断ち切って、浄化して終わる――そういった分かりやすい型は、あえて選んでいません。

リノルナは、勝つために戦う人ではありません。
そして、多くの場合、負けることも目的にしていません。

この物語がずっと問い続けているのは、
「どう生き延びるか」や「どう打ち勝つか」ではなく、
その場にどう立つか、ということです。


勝敗から少し距離を取る主人公

リノルナは、たしかに強い存在です。
けれどその強さは、相手をねじ伏せるためのものではありません。

痛みや恐怖に耐えられること
長い時間、踏みとどまれること
自分の拠点をつくり、守れること

一見すると、それは「勝つための力」に見えるかもしれません。
でも作中では、それがそのまま勝利につながることは、あまりありません。

というのも、この物語に出てくるお化けや怪異は、
そもそも「倒される前提」で存在していないからです。

終わりの見えない場所や、
どこにいるのか分からない存在、
人の生活のすき間に、いつの間にか入り込んでしまったもの。

そういったものは、
勝ち・負けという分け方そのものを、あまり気にしていません。


赤い着物の子と「二人の立つ場所」

シリーズの途中まで、リノルナのそばには赤い着物の子がいました。

「赤い子」は、感情がはっきりしていて、少し危うくて、
敵と向き合うことをためらわない存在です。

二人が同じ場所に立っていた頃、
世界はまだ、

リノルナにとっての「対処できる怪異」と
赤い子にとっての「倒すべき相手」に分かれていました。

けれど物語が進むにつれて、
赤い子は、その場所からいなくなります。

それは別れでもあり、喪失でもあり、
同時に、世界の見え方が変わる出来事でもありました。

「二人の立つ場所編」は、
二人が同じ場所に立てなくなったことを描く話であり、
リノルナが一人で立つことを、引き受けていく物語でもあります。

そして、赤い子はたぶん、
この世界の「ルール」のほうに溶けていくことを選択したんじゃないかな。


迷路という構造

このシリーズには、いくつか「迷路」のような場所が出てきます。
事故物件編に登場する絨毯の迷路や、迷路のお化けなどです。

それらに共通しているのは、
空間が「どこかへ行くためのもの」ではなくなっている、という点です。

進んでも辿り着かない
守ったはずの境界が、いつの間にか変わっている
立ち止まることさえ、意味を持たなくなる

迷路とは、出口を見失う場所というより、
進むこと自体が、だんだん空回りしていく場所なのかもしれません。

そんな中でリノルナが選ぶのは、
出口を探すことでも、敵を倒すことでもありません。

ただ、そこに立つことです。


「終わらせない」という選択

このシリーズでは、多くの出来事が、はっきりと解決しません。

完全に浄化されない話もありますし、
供養が保証されるわけでもありません。
理由や真相が、語られないまま終わることもあります。

でもそれは、投げ出しているわけではありません。

むしろ、
世界を閉じさせないまま、この世界に立ち続けることを選んでいる、
そんなリノルナの姿勢が一貫して描かれています。

勝たなくてもいい。
負けなくてもいい。

それでも、立ち続けることはできる、という感覚です。


このシリーズが描いていること

「霊能力者リノルナのお化け退治!」は、
リノルナ(人間)と赤い子(霊)の行動を通して、

リノルナのように、人間的に傷ついたあと、人は世界とどう呼応するのか。
赤い子のように、自ら衝突して損耗しながらも、なお世界と呼応することはできるのか。

そんなことを、静かに描いているシリーズです。

最後に残るのは、はっきりした答えではありません。
そこにあるのは、語りえないものに対する、たしかな手ごたえだけ。

そして、
「それ以上、確かめなくてもいいかもしれない」
と思える場所に立っている人物の姿だけです。

その姿が、
読んでいる人自身の立っている場所と、
少しだけ重なってくれたら――
このシリーズは、きっと役目を果たしているのだと思います。