占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第57話「買い物をする」

いまはお店にいて、
横殴りの大粒の雨が、
店舗用の大きなオフィス窓を叩く音を聴いている。

窓から外を見ても、外の様子がよく分からない。

窓の外側が、洗車機に入った車のフロントガラスみたいに
雨に洗われている。

だから、
嵐の夜なんだ、ということがわかるだけ。

お客のいない店内では、
道具屋が講座用のテーブルに、道具を並べている。

テーブルの隅にうず高く重ねて、取り分けてある道具類は、
この数時間のうちに、ぼくが買い込んだ道具の数々。

道具と言っても、
今回は使い切りのものばかりだ。

・夏バテ用のゼリー状のなにか(塩分過多にならない)
・喉を殺菌する飴状のなにか(口に含んで眠ると虫歯にならない)

それから、いつもの胃薬的なもの、風邪薬的なもの、頭痛薬的なもの。

けっこうな散財だな。

「道具屋さん。まだ帰らないんですか」
「はい、リノルナさん。そんなところでして。ここにいれば雨に濡れませんし、
 一時間おきにあんたがなにか買ってくれます」

道具屋が持ってくる栄養ドリンク的なものが、
ぼくの大のお気に入り。

朝鮮人参と牛黄がふんだんに含有されている高価な品だ。
でもそれは一年に一回まとめ買いをするので、いまはいらない。

そもそも毎日摂取が必要な物品は、
すぐ忘れてしまうぼくにはあまり向いてない。

「では、このまえ試していただいたブレスレットはいかがでしょうか」

と、道具屋はアタッシュケースからブレスレットを取り出す。

このブレスレットを手首に装備すると、
油圧アシストがかかったみたいに全身の筋肉がブーストされる。

「それ、付けてると身体の帯電もブーストされるんです。だからいらない」

「ポケットに入れておいてもいいんですよ。身体から3cmまで離しても有効です」

「身体から離しても、ぼくの身体に干渉する。いらない」

タバコを吸ってみようかな。

一階に降りて。

エントランスの屋根の下で。暴風雨を見物しながら。

「では、わたしはそろそろ、退散いたします」
「でも道具屋さん。雨に濡れますよ」

「リノルナさん。タバコの煙にまかれるより、雨に濡れたほうがマシです」

道具屋はドアをパタンと閉め、店を出ていった。