
占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第55話「セーフハウス」
夕暮れ時。
ダム湖の駐車場に車を停めた、その車中で。
ぼくはタイミングを待っていた。
あたりが、十分に暗くなった頃合いで、
ぼくは車のエンジンを始動させた。
車は、
ゆっくりと駐車場を出ていく。
そのまま、山道を下っていき、
平地に出る。
交差点で信号機が変わるのを待ち、
田園地帯に向けて、ハンドルを切る。
すっかり夜になった。
水田が終わり、再び山道に差し掛かるあたりの雑木林のそばに、
農機具をしまう小屋が建っている。
小屋から少し離れたあたりで、車を停め、ぼくは車を降りる。
何気なく、周囲を見渡す。
うん。誰もいない。
ここにはいつも人の姿がない。
小屋まですこし歩く。
とても簡素なトタン作りの小屋だ。
小屋の脇に配電盤のような箱が設置してある。
ぼくは箱の蓋を開けて、右手を中に差し込む。
チクッと、指先に痛みを感じる。
箱から手を抜き取って、
指先を確認すると、針で刺されたところに、
血がビーズの粒みたいに溜まっているのが、分かった。
血は、舐めておこう。
ガコン、と小屋のドアの掛け金が外れる重い音がした。
この小屋のドアは、
ぼく以外の血では開かない。
または、ぼくの健康状態が極端に変化している場合にも、このドアは開くことはない。
ドアの先には、地下に降りるエレベーターシャフトと手動型の箱台がある。
この小屋は、
ぼくのセーフハウスの入り口。
箱台に乗り込み、アコーディオン式の安全柵を閉める。
ぼくはレバーを引いて、地下に降りた。
「明かりをつけて」
LEDテープが真っすぐ伸びた通路に沿って、いっせいに点灯する。
やがて、奥にある部屋の明かりがついたのがわかった。
ついで、通路の途中にある小部屋の明かりもついた。
この小部屋は、パントリー。
さまざまな補給品を保管している。
小部屋に入ると、
四方に高い棚が並べられて、さまざまな品物が並んでいる。
小さな雑貨屋のような雰囲気だ。
ぼくはお金を保管している金庫を開けて、中を覗き込む。
それから、ポシェットから札入れを取り出す。
お金をたっぷり補給しておこう。
札入れをポシェットに戻し、
今度は棚に目をやる。
水。缶詰。フリーズドライ。たばこ。チョコレート。飴。
うーん。
飴にしようかな。
ぼくは、サクマのいちごみるくを2粒、パインのチイカワアメを2粒を取り出し、
ポシェットにしまう。
ぼくはパントリーをあとにして、
奥に部屋に入った。
部屋には、椅子が一脚と、台座が一台。
台座の上には「首像」が載っている。
ぼくは椅子に腰掛けた。
カチン。カチン。
と、首像が機械仕掛けの顎を動かした。
首像は、語り始める。
「……そも、事の起こりを尋ぬれば、地の座、あまたの針の山より、ただ一つをぞ択びとりて、その位にある者の具となしけるを、いかなる故とも問はぬままに、そのまま一室へと歩み入りて、人形どもの並びたる、四方を閉ぢたる部屋にて、赤き衣の座と相見え、渦巻きつつも、境もなく寄り添ひ、いづれの息とも分かちがたく混じり合ひつつ、ふと気づけば、一針を所に立て、また一針を立て、積み重ぬるうちに、いつしか囲ひとなり果てて、さてもかねてより、一族を離れて、ひとり生くべく、占ふ位とならば、彷徨ふ座をなむ鎮めてまかるべしと告げられたりしを、すでに為されぬることとして、記されたるなるべし。はた――」
「天上の歌を聴いて、帰ってきた人なんていないよ」
と、ぼくは答える。
ゴン。ゴンゴンゴンゴン――
足元から、鈍重の重機が稼働をはじめた振動が伝わった来た。
「じゃあ、はじめようか。まず前回のログをチェックして」
今回は、どうなるんだろう。





