占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第35話「古い客」

「先生、記憶力がほんとうに、ものすごいですね!」

と、ときどきお客さんが驚くことがある。

「だって、わたし2年前に一度ここに来て、
 そのときに先生に2年分占ってもらって、2年経ったから
 また来たんです」

お客さんは、自分の状況をぼくが記憶している、
と思ってびっくりしているみたい。

でも、ぼくはむしろ、
人の顔と名前を覚えるのが得意じゃない。

この女性とは、会うのは2回目みたいだけど、
ぼくは初対面みたいな気がする。

過去のカルテを漁れば、きっと出てくるだろうけど、
ぼくはカルテに鑑定内容を記録しない。

でも、占いを始めると、
過去の続きから始まる。

海外の連続ドラマみたいに

Previously on fortune telling――
って感じで、
頭の中で、前回までのあらすじが再生されるわけ。

理由は簡単で、
きっと、ぼくがお客さんの位置と距離とパワーばかりに
気を取られているからだろうな。

ぼくはこのことをお客さんに正直に話し、

「これをぼく、
 究極の守秘義務って呼んでるんですけどね」

と二人で笑いあった。

「今日また2年分占ってもらったから、
 また2年後来ますね!」

お客さんはそう言って、店を出て行った。

次に来たのは、男性のお客さん。

この男性は、
初めてのお客さんのような気がする。

すごく悩んでいるみたいに見える。

「迷うこと自体は、べつに悪いことでもないんですよ」

と、ぼくは声をかける。

「何回か、先生の鑑定を受けました」

そうだったんだ。

突然、前回の鑑定のビジョンが
こんなふうに再生される――

彼は実業家で、
事業Aと事業Bとの兼ね合いが懸案だった。
彼は事業Aを残して、事業Bを畳み、新たに事業Cを起こしたい。

でも、その事業Bが問題で、
権利関係が複雑に絡み合い、
彼ひとりでは、なにも動かせない――

「あ、そうでしたね。
 あなたはここにいらっしゃったことがあるみたい」

「ええ。
 それで私はいま大きく2つ事業を展開しておりまして」

男性は、大きく息を吐いた。

「じつは事業Aを畳んで、事業Bを発展させていこうかと」

「ふーん」

そうか。前回とは、逆なんだね。

でも、それだと――

「あなたは引退して、後進に道を譲ることになっちゃうけど」

「え? それを、なぜ分かったんですか?」

ぼくは、男性を見つめる。

ぼくは見えたものを、
正直に
すべて言葉にするって、わけでもない。