
占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂⑧「線引き」
鑑定台の向こうで、
客はまっすぐに座っていた。
姿勢がいい、というより、
整いすぎている。
――なんかおかしいな。
占いを始めると、
タロットはすべて逆位置で出た。
そして、アドバイスのカードは、
「悪魔」か。コレも逆位置。
ぼくは、逆位置をとらないけど。
でも、これは「ファンブル」だ。
伝統的に「悪魔憑き」を意味する配置。
でもまさか【悪魔】レベルの憑依なんて、今時ありえない。
ぼくは、サーチを始めた。
「もう怖いものは、ありません。
不安も、特にないです。
自分なりに整理できていますから」
「そうなんですね。それはよかった」
お化けは検知されない。
じゃ、なに?
呪い?まさか。
でも、なにか人為的なーー
<カチン>
あ。なんかいま。
「あの、あなた最近、なにか心理療法みたいな施術を受けたりしましたか?」
「知り合いに紹介されて。すごく、よくしてもらったんです」
少し、嬉しそうだった。
「ちゃんと、線を引いてくれる人で。
ここまでは考えていい、
ここから先は考えなくていい、って」
そう言いながら、胸の前で指を軽く組む。
「境界、って言ってました。越えなくていい線があるんだって。
線引きしてもらって。その中にいれば、安心なんです」
――境界。
「怖いこととか、全部、なくなりました。迷うのなんて、無駄なんです。
前より、ずっと楽です」
「……でも迷わなかったら、生きていけないですよ」
「先生、全然そんなことないです。
必要なところに、必要なことをすればいいんですよ。
すごく優しい先生で、いろんなこと知っていて、
線引きしてくれました」
「優しい先生なんですね。よかったですね」
「はい」
その客はいつまでも席を立たなかった。





