占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂⑦「安全な距離」

鑑定台を挟んで、お客さんがぼんやりした目で、
ぼくを見ている。

いや、ぼくを見ているのかな。
それとも、自分を内省しているのかも知れないけど。

内省してくれていたらいいんだけどな。

占い師として、困る場面。
それはお客さんの意思がどこにあるのか、
エネルギーの方向がどこに向かっているのか
感知出来ない時。

鑑定台には、起点となるカードが一枚。
意味は「悩んでいる」

そのカードからカードの列が分岐して
「プランA」と「プランB」を作っている。
どちらも同等の価値がある。

つまり、
お客さんが好きな分岐を選べば良いだけなんだけど。

お客さんはさっきからフリーズしている。

起点のカードは動かない。

「悩んでいる」

その先に並んだ二つの列も、どちらも静かだ。

正直に言えば、
ぼくなら、決められる。

――だったら。

でも、それは占い師としてイマイチだ。

そのとき、
お客さんの肩が少し下がった。

<境界>が立ち上がり、
なにかに接続された感触がやってきた。

お客さんが少しリラックスしたのかな。
ぼくに言葉が自然に降りてくる。

「迷うことって、
 別に悪いことじゃないんですよ。

 この分岐を選んだら、
 また次の分岐が現れるだけ。

 それがすごく大変だと思う日もあれば、
 ただその繰り返しに過ぎないって
 思う日もあるって感じ」

お客さんは、しばらくカードを見ていた。

それから、小さく息を吐いて、
椅子を引いた。

「……今日は、これでいい気がします」

ぼくは頷いただけだった。

扉の前で一度だけ立ち止まる。

「決めなくていいって言われたの、初めてでした」

そう言って、軽く頭を下げた。

扉が閉まる。

鑑定台の上には、

「悩んでいる」のカードが、そのまま残っていた。

ぼくはカードを片づけず、
しばらくそのままにしておいた。