占い師リノルナの事件簿@京都ほしよみ堂第38話「山登りをする」

ぼくは、とつぜん山登りをしてみたくなって、
いてもたってもいられなくなった。

そこで山登りの専門家でもある、
ぼくの彼氏に山登りに必要な装備と心構えを
問い合わせた。

そして当日、ぼくは
彼のアドバイスをまったく無視した服装で
登山口に立った。

心配になった彼も普段着のまま、ぼくのとなりに立っている。
でも、彼は靴だけは登山靴。

「なんだリノルナ、ぜんぜん普段着じゃないか。
 ぼくのアドバイスはどこに行った」

「きみもね。ぜんぜんきみのアドバイス通りじゃないね」

真夏の8月。
とても有名な神社のある山の、
そのとなりの山。

この山にも、かつて神社があって
賑わっていたらしい。

「さあ、いこうか」

ぼくが先頭になって、登山道を歩き始める。
「マムシ注意」と書いた札がところどころにある。

「山は冬は危ない。夏に登るのは安全。
 参考になったよ。ありがとう」

「いや。それは高山の話だ。
 こういう低山は真夏には登らない。熱中症を起こすんだ」

彼は、低山は春や秋に登るものだという。

「ふーん。そうなんだ」

木道の途中に、
沼が見えた。「龍神様の池」と書かれた札がある。

謂れが書かれた木製の古びた看板も建っている。
彼はそうしたものを読むのが好きなので、

立ち止まってしばらく読んでいる。

「文字がかすれていて、うまく読めないな。
 リノルナ、なにか感じる?」

「ぜんぜん。龍神様は、いまお出かけ中なのかもね」

ここから登山道は石を不揃いに重ねただけの石段に変わった。

「ああ。蚊に刺されたよ。まったく」

彼はタオルで首筋を拭きながら、
文句を言う。

「きみの血液型は何型? ぼくはAB型。
 蚊に刺されにくい」

「ぼくはO型。O型は蚊に刺されやすいの?」

「そう。O型は蚊に刺されやすい。
 蚊にとってO型の人は花の蜜の香りがするらしいよ」

石段の途中で、不思議な石造りの鳥居に出くわした。

「わあ。なんだろう。すてきな彫刻がしてあるね」

「ああ。これはおそらく日本画家の堂本印象の作だね。
 これはぼくも初めてみた」

彼が鳥居を熱心に調べているあいだ、
ぼくは木々の上のほうを見上げていた。

蝉の声が止まっている。

もう少し登ると、頂上に出そうだ。

やはり堂本印象の仕事で間違いなさそうだ、という
彼の報告を聞いて、

二人は石段を最後まで登り終え、
山頂に辿り着いた。

「さあ、ここが山頂だ。
 これできみの目的は達成?」

彼は小さな休憩スペースに座り込み、
汗だくの顔をタオルで拭き、飲み物を飲み、
蚊に刺された場所を数えている。

「うーん。どうかな」

ぼくは、ふもとに広がる低層のビル群に目をやる。

ぼくはどうして、ここに来たかったんだっけ。

ぼくの身体は少し首をかしげて、
ビル群の中の、

ある一点を見つめている。